椅子が教える家づくりの価値。

流行に流されない家づくり。

マイホームを考え始めると、雑誌やSNSで見る素敵なインテリアに囲まれた暮らしを想像して、夢が膨らみますよね。特に、家族が集まるリビングの家具や、毎日使うキッチンなど、こだわりたいポイントは尽きません。

しかし、たくさんの情報に触れるうち、「良いものは、やっぱり値段が高いのかな?」「このオプションは付けるべき?」と、いつの間にか価格やスペックだけでモノを選んでしまいそうになることはありませんか?

今回は、そんな家づくりの「モノ選びの軸」を見つけるヒントを、一脚の椅子を通してご紹介します。それは、日本を代表する建築家・吉村順三が設計した「たためる椅子」。この椅子が教えてくれるのは、見た目や価格に惑わされず、自分たちの暮らしにとって本当に価値あるものを見極める視点です。

 

1│価格=価値?を疑ってみる

家づくりでは、高価な設備や流行のデザインなど、魅力的な選択肢が次々と現れます。「せっかくだから良いものを」と思うのは自然なことですが、果たして「価格の高さ」と「暮らしの満足度」は必ずしも比例するのでしょうか。

例えば、「座り心地の良い椅子が欲しい」と思ったとき、無意識に高価なブランド品に目が行きがちです。しかし、本当に大切なのは価格ではなく、自分の身体に合っているか、長く愛用できるか、そして日々の暮らしにそっと寄り添ってくれるか、ということかもしれません。

この「価格=価値」という思い込みから一度自由になることが、後悔しない家づくりの第一歩。まずは、自分たちにとっての「心地よさ」とは何かを考えることから始めてみましょう。

 

2│名作椅子に学ぶモノ選び

モノ選びの本質を教えてくれる、象徴的な一脚の椅子があります。それが建築家・吉村順三が設計した「たためる椅子」です。

正直に言うと、SNSで話題になるような華やかさや、一目でわかるような奇抜なデザインではありません。むしろ、その佇まいは非常にシンプルで、少し地味にさえ見えるかもしれません。

しかし、この椅子の真価は、座った瞬間にわかります。身体にすっと馴染む絶妙な寸法、思わず何度も撫でたくなる滑らかな木の質感、そして折りたたんだ姿さえも美しい無駄のないデザイン。すべてが「人が、長く、心地よく使うこと」だけを真摯に考えて設計されているのです。目に見える派手さではなく、使う人の暮らしに寄り添う「用の美」が、この椅子には宿っています。

3│「映え」と「心地よさ」は違う

吉村順三の椅子が教えてくれるのは、「素敵に見えること」と「毎日使って心地よいこと」は、必ずしも同じではないということです。これは、家づくりにもそのまま当てはまります。

例えば、SNSで「いいね」がたくさん付くような、広々とした吹き抜けや、デザイン性の高いスケルトン階段。確かに魅力的ですが、実際に暮らしてみると「冷暖房が効きにくい」「音が響きすぎる」「子供が小さいうちは危ないかも」といった現実的な問題に気づくこともあります。

家は、暮らしの道具です。写真映えする一瞬の美しさよりも、朝起きてから夜眠るまで、365日続く日常の中でストレスなく、心地よく過ごせることの方がずっと重要です。流行や他人の評価に流されず、自分たちの生活スタイルに合った選択をすることが大切です。

 

4│暮らしの「ものさし」を持つ

吉村順三の椅子を選ぶ視点は、そのまま家づくりの物差しになります。それは、見た目や価格といった表面的な情報に惑わされず、「なぜ、これが必要なんだろう?」「自分たちの暮らしにとって、本当に心地よいものは何だろう?」と、本質を問い直す姿勢です。

高額なオプションや最新の設備を検討する前に、一度立ち止まってみてください。

「本当にこの機能は、我が家の生活を豊かにしてくれるだろうか?」

「見栄えは良いけれど、10年後、20年後も愛せるデザインだろうか?」

この自問自答を繰り返すことで、他人の価値観ではなく、自分たち家族だけの「暮らしの軸」が明確になっていきます。その軸さえしっかりしていれば、無数の選択肢を前にしても、迷うことなく最適な答えを選び取れるはずです。

 

5│物語のあるモノを選ぶ

家づくりとは、単にスペックや価格を比較検討する作業ではありません。自分たちの暮らしを形づくる、大切なパートナーを選ぶ旅のようなものです。

長く愛せるモノには、必ず理由があります。それは、吉村順三の椅子のように、作り手の「思想」や「哲学」が込められているからです。そのモノがどんな想いで作られたのか、どんな工夫が隠されているのか。その背景にある物語にこそ、本当の価値は宿っています。

これから家づくりを始める皆さんも、ぜひこの「たためる椅子」に触れる機会があれば、一度座ってみてください。きっと、モノの表面的な情報だけでは計れない、奥深い価値に気づかせてくれるはずです。そしてその気づきは、あなたの家づくりを、より豊かで後悔のないものへと導いてくれるでしょう。

ちなみに、この椅子は職人による受注生産のため、お届けまで1年以上かかることもあるそうです。新居の完成に合わせて…とお考えなら、早めに検討を始めてみるのも良いかもしれませんね。

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