光を仕立てる、和の様式美。

光と風を愉しむ、日本の建具の知恵。

襖(ふすま)をすっと開けると、二つの部屋が繋がり、広々とした空間が生まれる。障子(しょうじ)を閉めれば、強い日差しがふわりと優しい光に変わる。

日本の家で古くから使われてきた「建具」は、単なるドアや窓ではありません。光や風を上手に取り入れ、暮らしの場面に合わせて空間を自由に変える、日本人の知恵と工夫が詰まった発明品なのです。

現代の住宅ではあまり見かけなくなりましたが、その魅力や心地よさを知れば、きっとあなたの暮らしにも取り入れたくなるはず。この記事では、そんな日本の建具の奥深い世界を、わかりやすくご紹介します。

 

1│日本の建具、昔と今

日本の建具は、その時代の暮らしに合わせて姿を変えてきました。平安時代、貴族たちは御簾(みす)などで部屋をゆるやかに仕切り、自然の風を感じながら暮らしていました。時代が武士の世になると、お客様をもてなす立派な部屋に、美しい絵が描かれた襖が飾られるようになります。

そして、茶道が広まると、シンプルながらも落ち着いたデザインの建具が好まれるように。日本の建具は、ただの道具ではなく、その時代の文化や人々の心を映してきたのです。

 

2│建具の種類と素敵な役割

日本の代表的な建具には、それぞれに素敵な役割があります。

襖(ふすま):部屋を自由に変える魔法の壁

襖の最大の魅力は、空間を自由自在に変えられることです。普段は二つの部屋として使っていても、親戚や友人が集まるときには襖を取り払って、一つの大きな部屋にすることができます。

壁と違って隣の部屋の気配をかすかに感じさせるのも、襖ならではの良さ。家族のつながりを大切にしてきた日本の暮らしに、ぴったりの仕掛けです。また、美しい絵柄やデザインを選べば、襖そのものがお部屋を彩るアートにもなります。

障子(しょうじ):やさしい光のマジック

障子は、光を巧みに操る天才です。和紙を貼った障子を通すことで、真夏の強い日差しや西日は、まるでベールをかけたような、やわらかで心地よい光に変わります。部屋全体が均一に明るくなるので、目に優しく、落ち着いた時間を過ごすことができます。

さらに、和紙は湿気を吸ったり吐いたりして部屋の湿度を調整してくれる効果も。夏は涼しく、冬は冷たい空気を和らげてくれるので、一年を通して快適な暮らしを助けてくれる、賢い建具です。

格子戸(こうしど):風と視線のやわらかな仕切り

木の棒を組み合わせて作られた格子戸は、「完全に隠さない」のがポイントです。外からの視線をほどよく遮りながらも、家の中からは外の様子が感じられ、安心感と開放感を両立させてくれます。

特に玄関や縁側に使えば、プライバシーを守りながら、心地よい風を家の中へと招き入れることができます。格子にあたって生まれる美しい光と影のコントラストは、それだけで一つのアートのようです。

 

3│職人の技と、木のぬくもり

日本の建具の美しさは、良質な木材と、それを扱う職人の素晴らしい技術によって支えられています。

木のぬくもり

建具に使われる杉や桧(ひのき)は、美しい木目や心安らぐ香りが魅力です。木は年月が経つほどに色合いが深まり、家族の歴史と共に味わいを増していきます。工業製品にはない、この「育てる」楽しみも魅力の一つです。

職人の技

釘を使わずに、まるでパズルのように木片を組み合わせて模様を作り出す「組子(くみこ)」という技術は、まさに神業。一つひとつ手作りされた建具には、職人の丁寧な仕事と温かい心が込められています。

 

4│今の暮らしに活かすヒント

「和室がないから…」と諦める必要はありません。日本の建具は、現代の洋風の家にも素敵にマッチします。

カーテンの代わりに障子を

洋室の窓に「内障子」を取り付ければ、部屋がやさしい光に包まれ、断熱効果で電気代の節約にもつながります。

おしゃれなパーテーションとして

リビングの一角に格子戸を置けば、圧迫感なくワークスペースなどを仕切れる、おしゃれなアクセントになります。

クローゼットの扉に

ふすまや障子をクローゼットの扉にすれば、お部屋の雰囲気がぐっと温かく、個性的になります。

 

5│暮らしを豊かにする日本の知恵

日本の建具は、効率や便利さだけでは測れない、心の豊かさを教えてくれます。障子越しの光で季節の移ろいを感じたり、木の香りに癒されたり。そんな瞬間が、毎日を少しだけ特別なものにしてくれるはずです。

職人の手仕事から生まれた、ぬくもりある建具。あなたの暮らしにも、そんな日本の知恵を取り入れてみませんか?

akitsu・秋津

美は、日々の営みの中に。

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